YUI'S VOICE (14)
今日のは、長いです。多分。
【2020年6月23日 Hakuju New Style Live〜今こそ音楽を!弦楽六重奏・喜び〜】
自分の音楽人生でとても印象深い日となりました。
この日は東京にあるHakujuHallでの弦楽六重奏の演奏会でした。
メンバーは、1st violin尾池亜美、2nd violin田代裕貴、1st viola安達真理、2nd viola多井千洋、1st cello荒井 結、2nd cello伊東 裕。
実はこの弦楽六重奏の演奏会の話が来たのはこの10日ほど前。
6月13日(土)に昔からの心友でもあり良き音楽仲間、今回2ndを弾いた田代裕貴から突然電話がかかってきました(彼の魅力についてはまた長々といつか書きます 笑)。
ゆっきー(田代くん)「ヴァイオリンの尾池亜美ちゃんが中心となって動いてくれてて、突然だけど23日に東京のHakujuHallってとこで室内楽の演奏会をしたいのだけど、ゆい、その頃東京に来ることって、、できないかな?」
結「23日って何月のー?来月?😀」
ゆっきー「ン、、、今月。ってか、来週。」
結「!!?!?!??!?!?」
しかも何を弾くのかを尋ねたら、【チャイコフスキー:弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」】という大曲。。驚きでしかなかったです。
まず驚いたのは、本番がほぼ1週間後。そしていつリハーサルをするんだ?!という大曲。
また、自分にとってこの「フィレンツェの思い出」は中学生の頃に1楽章だけやったことがあって、全楽章やったことがない。
・・・・・「今から楽譜手に入れて譜読みして、、間に合うかな。。。」ってのが頭に。
でもメンバーを聞いたらもう喉から手が出るとはこのことか!と思うくらい魅力的なメンバー。
今回、ヴァイオリンの尾池さん、ヴィオラの安達さん、チェロの伊東くんは初めましてなのです(伊東くんは日本を代表する若手チェリストの1人でもあるのでもちろん存在は知っており、面識もありましたが、一緒に弾くというの完全に初めて)。
そしてヴィオラの多井くんは、中学生くらいの時のスズキメソードでお世話になった多井くんのお師匠さんがやっていたスズキメソードの子供達による北大阪ユングゾリステンという合奏団で一緒に弾いていた仲です。
ね、荒井にとったら、魅力的なメンバーなんですよ。
そしてもう一つの不安は、、、
「今この時期に東京に行っていいのかどうか・・・感染者がまだ続いている東京に」
「家族に反対されるかもしれない」
「自分がコロナを持ち帰るかもしれない」
「みんなまだまだ我慢しているときに。。。」
ゆっきーに電話越しで「今東京に行くことは実は不安でもある」ということを伝えました。彼はもちろん「尾池さんも無理にとは言ってないし、もちろん結が不安な気持ちのままってのもよくないからよく考えて。」と言ってくれました。
1日考えさせてほしいと電話を切って、本当に1日もらって考えました。
でももうその瞬間には自分の中での気持ちは結構固まってて。
「行きたい。演奏会で、ステージで、弾きたい。行きたい。行く。」
今年3月から新型コロナウイルスによって数々のイベント、公演がことごとく中止、延期になってしまい、いつコンサートがあるかわからない。
これから先のコンサートもまだ△マークが手帳に続いている。
でも今もらった電話は「来週、演奏会をする。しかも、お客さんを入れて。」
こんな魅力的なチャンスは二度とないかもしれない。
(もちろん、これ以上爆発的に感染者が増えてしまったりしたら、前日までは本当に開催されるのかはわからなかったです)
6月14日(日)
1日考え、行くと決めて、ゆっきーにメッセージを送りました。
「ゆっきー、お引き受けいたします!」
送った瞬間、なぜかこちらの方がテンション爆上がりでした。笑
その後ゆっきーからもテンション高めの返事が返ってきて(彼は普段なかなかのナチュラルクールボーイなんです 笑)、みんなのLINEグループの会話に入れてもらいました。
初めましての人たちいるのになんだかもう何年も知ってるかのような、半端ないウェルカムムード。笑
6月15日(月)
速攻で楽譜を手に入れて、ちょうど福井から名古屋に戻る時だったので、運転してる車の中は2時間半ずっとひたすらチャイコフスキーのCDリピートオンパレード。
その日実は荒井なしで5人で初合わせをしていたようです。
名古屋に着いて1人で頑張って譜読みを開始していました。楽しそうな5人の合わせ風景の写メまで送られてきて、さらに「1曲シュトラウスのCapriccioが追加になったから〜!」とメッセージも来て、荒井のお尻に更に火がつきました。
6月16日(火)も朝から爆音でチャイコフスキーをかけながらソーセージやらパンやらなんやらノリノリで焼き、食べて速攻楽器持つ。
なんか、いつぶり!? この、公演に向けての気分の上がり方!?
六重奏ってやはり音が大混雑しているところがたくさんあるので、みんなで弾いてみないとわからないところもたくさんあって、半信半疑でとりあえず音とリズムを自分に叩き込んでいきました。
こんな調子であれよあれよと6月20日(土)になり、ついに久々の東京入り。
マスクにアルコール、除菌シート、除菌スプレー、とりあえずあとは自己管理と自己責任だし!ということで自分が持っているウイルス対策のもの全て荷物に入れてドッキドキで東京へ乗り込みました。
東京に着いて思ったこと。もちろんこれからも決して油断はしてはいけないけど、毎日報道を見てると「東京はやばい」「今は行かない方がいい」というイメージしかありませんでした。でも自分は実際東京に行ってみて、みんなそれぞれがきちんと気をつけて、なんとか必死に日常を取り戻そうとしていることに気がつきました。なるべくラッシュアワーを避けるとか、地下鉄使わないとか、窓は常に全開にしてるとか、そこら中にアルコールがあってみんなそれを使う、とか、その他にも色々。明らかにコロナ前の東京よりは駅の感じや電車の感じが人が少なかったように見えます。報道によって変なイメージをつけられてる・・・ということを実感しました。
楽器とスーツケースを持ったままみんながいるリハーサル会場に到着しました。
「初めまして〜!、、って感じしないね〜!」と元気に挨拶してくれたのがヴィオラの安達さん。笑
初めての合わせで第一音から、皮膚の毛穴という毛穴が全開になりました。まず人と一緒に弾くということ、他の人の音が目の前、真横で鳴ってる!その音が体の細胞全部に響いてきて、反応してる! そしてみんな良い音・・・! 2nd celloの伊東くんなんてまだ20代なのに、やかましい元気な年上の5人をヒョイ!と持ち上げてくれるようなセカンドチェロ弾きでした。
もう、ただただ楽しかったです。
6月21日(日)はメンバーの予定が合わなかったのもありリハはなし。
6月22日(月)2回目のリハーサルです。
けど本番はもう目の前。笑
でもなんか全く不安とかない、なにこれ。笑
2回目でみんなの音がようやく全部聞こえてきた感覚はありました。
尾池さんと安達さんの長年の音楽の絆を思わせるような瞬間もたくさん見えてきて、それはそれはキラキラしていました。そしてその間で黙々とクールに支える、そして2ndヴァイオリンという立場をこよなく愛する田代くんの抜群安定感。
6月23日(火)
なんだか信じられないけど、今日、本番できるんだね・・・!?!?!?
リハーサルでは、まず会場に着いたらアルコール除菌、検温。
そしてステージに行ったら、見たことないくらい距離(ソーシャルディスタンス)のとった形の椅子と譜面台の配置。
それでもHakujuHallは素晴らしい音響で。
ホールにいる・・・今ホールで弾いてる。と思ったら目が湿気で一瞬よく見えなくなってきました。
本番直前は久々の感覚で本当に心臓がバクバクしていました。
これこれこれこれっ!と思いながらテンション上がってるけど、心臓バクバクあーー怖い。
で、もちろん本番は、素晴らしい時間となりました。忘れられない瞬間に。終わりたくなかった。
やっぱり音楽は生き物なんですよ。その日その瞬間にしか生まれないものがあるんです。
奏者たちは、その一瞬を生み出すためにそこに向けて準備していくのです。
便利な世の中になったとしても、録音や録画は録り直すことができる。
なまものはそれができません。だから、良いんです。
今の時代じゃ完璧なんてAIならすぐできることだけど、完璧じゃないからいろんな人たちが前に残した人たちのものを研究してどんどんいろんな形を生み出していっているんだと思います。
それでも完璧にはならない。だから、続くんです。
これは芸術だけの話じゃないはず。
コロナがなかったら、良い意味でも悪い意味でも、こんな思いをしなかった。
見えない敵、ウイルスによってこんな辛い思いをするとも思わなかった。
そんな色んな思いをためてきたからこそ生まれた6月23日の演奏だったと思います。
そして感謝するのは、今の時代を生きる自分たちにたくさんの素晴らしい芸術の財産を残してくれた作曲家たち。
彼らはコロナなんて知らないし、わからないけど、これまでも戦争があった時代になんとか文化・芸術だけは、AIではなく人類の手によって伝統を繋ぎ、伝え続けていくことができた。
それによって舞台に上がった表現者も、その表現を受け取る聴衆たちも、救われてきたことがたくさんあると思います。
ドイツに留学していた時についていた師匠のヴォルフガング・メールホルン先生から「いつの時代も芸術が必要とされているのはなぜだと思う?」と聞かれたことを思い出しました。
そして今回本当に考え、感じました。人類にとって芸術、エンターテイナーは絶対に必要だと思います。
人間が持つことのできる喜怒哀楽を描く様々な作品(音楽、演劇、美術、映画、ダンス、小説など)は色んな感情を持っている人々の間で共感、共有できるからです。
それと今回このメンバーと共演して感じたことは、これ本当に言葉では表すことができないのですが、、、
初めましてなのに、会ったこともない、その人がどんな人か、どんな声かまだわからない、自分がどんな人間か相手にも知ってもらえてない、はずなのに!!
歌う旋律、拍間、無音の時間、空気感、全てを共有できた、というかしてもらえた?
ヴィオラの多井くんとも帰りの電車で語り合いましたが、「楽器が上手いとか下手の次元の話じゃなくて、人だよね。人柄。人そのものがそれぞれを受け入れたね。要するにみんな愛だ。愛がないとね。」と。彼のいうとおり。愛があれば、喧嘩も争いも、戦争も起きない。ウイルスもみんなで乗り越えられると。
本当に最後まで幸せな時間でした。
今回、この企画をリーダーとして全てをやってくれた尾池亜美さん、この素敵なメンバーたち、HakujuHallの素晴らしいサポート、様々な困難の中聴きに来てくださった60名のお客様、東京行っておいで!って背中押して言ってくれた人たち、全ての人たちに感謝します。
(荒井結リサイタル実行委員会からも聴きにきてくださいました!感激!)
演奏家にとって、演奏会は、その一瞬にしか生み出せない表現の場です。
その場がないと、一つの作品の完成とは言えないと思っています。
改めてそのことについて向き合うきっかけとなりました。
まだまだコロナさんとお付き合いしていかなければならないようですが、なんとか芸術の灯火を消さないように全世界の芸術家たちはどんなに小さな一つの表現の場も大切にしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!!!
(なんか全世界の芸術家代表みたいな挨拶になってしもてますけど挨拶させてください。笑)
さて7月も本番、心の奥底にいるちっさい魂ちゃんをまた震わすように前向きに準備していきたいと思います。
今回は熱くなり過ぎて画面に向かって2時間半かかりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
荒井 結
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