YUI'S VOICE (16) -- ソロリサイタルを振り返って --

ーー10月の東京と福井のソロリサイタルが終わって1ヶ月経ちましたね。

荒井 今年も残り2ヶ月を切りました。10月3日のハクジュホールでのソロリサイタル、そして10月9、10日に開催したハーモニーホールふくいでのソロリサイタルにお越しくださった皆様、たくさんのご来場をありがとうございました。

去年初めて東京でのソロリサイタルが実現し、たくさんの方々に聴いていただき、今年また聴きたいと足を運んでくださった方々がいたこと、本当に嬉しく思います。


ーー今回の選曲にはどのような思いがあったのでしょうか。

荒井 今年は新型コロナウイルスによって世界中の人が振り回され、本当に空白の数ヶ月間があったかのような年でした。未だに2021年が来るという実感がありません。2020年が来るような気持ちです。

10月3日のリサイタルが決まった時はまだ今年がこのような情勢になると思っていなかったので、2020年は自分にとってもこの舞台を踏むことで作品に勇気づけられるような、また一躍できるようなプログラムをと思い、バッハ、ベートーヴェン、ラフマニノフという偉大な作曲家たちの作品を選びました。

バッハをソロリサイタルで演奏するという精神状態は本番前に想像がついていましたが・・・やはりバッハの無伴奏作品を演奏するということは、精神を試されてるような気持ちになります。でもその半面、今の自分のありのままを本番に連れてこれるということでもあり、その時感じた、その瞬間に感じた音の響きや間を楽しむことができました。もちろん一曲目に無伴奏ってこと自体が超絶緊張しましたけど(笑)。


ーー2曲目はベートーヴェンのチェロソナタでした。

荒井 今年生誕250周年のベートーヴェンの作品は、学生時代に5つのチェロソナタのなかでもどうやって演奏するものなのか、または聴くものなのか分からずにいた5番を選びました。

ここ数年は弦楽四重奏をやっていて、ベートーヴェンの作品をやることが多かったので、本当にいろんなことが結びつきました。ベートーヴェンのソナタもが弦楽四重奏のベースラインの重要さを物語っていたり、寡作期に出来上がったというベートーヴェンの和声の実験期間、後に素晴らしい後期の作品が出来上がっていく過程が見えたりと、本当にたくさん勉強になりました。そしてもっともっとベートーヴェンの作品をたくさん演奏したいと思いました。


ーー休憩をはさんで、後半は大曲のラフマニノフが演奏されました。

荒井 プログラム最後のラフマニノフのチェロソナタは、このコロナ禍で演奏することができて良かったと思っています。リサイタルが決まり、プログラムを決めた時にはまだ「コロナウイルス」なんて言葉は世に出ていなかったと思います。そんななか、今年2月頃から「新型コロナウイルス」という言葉は世の中を飛び交い、数ヶ月間、そして感染拡大が収まらない今も自分含め世界中の人たちが不安の中にいます。

特にコロナ禍になって考えることが多かったので、ラフマニノフの音楽を聴いていると何か重ね合わせられる部分が多いようにも感じました。

コロナ前にこのソナタを選んだのも、自分自身が今置かれている状況や、この社会で生きていて定期的に来る自分の中で勝手に起きる葛藤に自分自身がとても勇気付けられるんじゃないかなと思い、自分のために選んだ作品かもしれません。

生きているといろんなことが起こったり見えたり、このまま自分はどんな風に生きていくのかということをよく考えます。どんなに良い方向に持っていったって、自分自身を変えることはできないので、きっとこのモヤモヤは死ぬまで持っていることなんだと思いますが、いろんな葛藤から少し見えた光や、見えそうでやっぱり見えなかったという絶望や、でもやっぱりその光を見たいから前進する!という自分から沸き起こるエネルギーを大いに音楽に結びつけていきたいと思いました。

ラフマニノフ自身にも自分の中で起きた葛藤を武器にして作曲し、今を生きる自分たちにその辛い思いや葛藤こそも大切にして、それでもやっぱり前を向いて生き抜いていくという大切さを作品を通して教えてもらい、ラフマニノフに背中を押してもらったような本番になりました。


ーー昨年に引き続いて鈴木慎崇さんとの息もぴったりでしたね。

荒井 今年も素晴らしいピアニストの鈴木慎崇さんが共演してくださり、たくさんのことを共有できた公演でした。初めて福井の皆さまに聴いていただけたことも嬉しかったです。鈴木さんのピアノの素晴らしさに感激してくださった声の多いこと多いこと・・・!!

最後に、今年もリサイタルに向けてたくさんサポートしてくださった実行委員会の皆さま、感染対策といういま最も大変な作業を完璧にこなしてくださり、不安ななかでもリサイタルを開催してくださり本当にありがとうございました。team結の団結力は半端ないです。素敵な会場、ハクジュホールでバースデーリサイタルをさせていただけたことは、自分の音楽人生のなかでも大切な思い出のページに残りました。

また、いつも地元・福井でもたくさんの方々にサポート、応援していただき、音楽家なりたて時代からお世話になっている福井県文化振興事業団様に主催していただいた2公演とも完売御礼で、本当にたくさんの故郷の方々に聴いていただけたことも幸せでした。これからも故郷を大切にしながら、いろんなことを吸収し、発信していきたいと思います。

今年も残りあと少しですが、最後まで突っ走りたいと思います!


ーーありがとうございました。来年もご活躍を楽しみにしています。


福井公演の終演後、街中を駅に向かう荒井結さんと鈴木慎崇さん

Yui Arai Tokyo cello recital

荒井 結チェロ・リサイタル実行委員会のオフィシャルサイトです。

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